It is'nt 第1章 05節

 この時、僕が考えていたことは、能動を誘導するか、受動に任せるかということだった。本ならば「どのようにして次のページをめくってもらえるかと、考えるところ。映画では、先に時間を設定しており、その時間にどのように楽しんでもらうか。面白いと思ってくれるか。。。  この差を埋めるにはどうしたらいいかというものだった。

 撮影初日。現場の6畳間に次々と機材が運び込まれる。照明、カメラ、音声などで電源が足りないため、隣の家に行き「すみませんが、電気を貸してください」などといったお願いをするのも僕の仕事だった。

 あらかじめ「監督が『ここにヤカンを置いてほしい』と言えば、近隣を訪問してヤカンを借りてくるのが君の仕事だ」と言われてはいたが、「電源確保できましたー!」と成果を報告しても褒められることもなく、各種コードを見えないように隠す作業や、家具の移動と掃除などの作業を次々と命じられる事に多少の物足りなさを感じたが、各部門のチーフの真剣な視線がそれを中和させていた。